研究計画

研究の背景・目的

わが国では過去10年以上にわたって、政策金利がゼロの下限に張りつく中で、物価が緩やかに下落するデフレーションが進行している。同様の現象は欧米諸国でも起きつつある。本研究では、デフレに代表される経済の「貨幣的側面の変調」とGDPトレンド成長率の低下や金融機能の低下などの「実物的側面の変調」が多くの国で同時発生していることに着目し、その相互連関を解明する。日本をベンチマークとした国際比較分析を行う。

研究の方法

本研究は、「事実整理」→「モデル構築・検証」→「政策シミュレーション」の3段階で進める。「事実整理」の段階では、物価予想の計測、過去のデフレ事例のパネル分析、物価の計測精度の検証などを行う。「モデル構築・検証」の段階では以下の6つの仮説をモデル化し検証を行う。

  1. 「度重なる負のショック」説
  2. 自己実現型デフレ
  3. ディレバレッジ説
  4. 負債デフレ説
  5. バラッサ=サムエルソン型の説明
  6. 「内部貨幣の不足」説

最後に、「政策シミュレーション」の段階では、実際には採用されなかった政策も含めてその効果を計測する。

期待される成果と意義

貨幣的側面の変調と実物的側面の変調の関係を理解する試みとしては、2つの既存研究の流れがある。第1は、ゼロ金利現象を自然利子率の低下によって説明しようとする一連の研究である。その先駆はKleinやTobinの研究であるが、日本でゼロ金利現象が起きたのを受けてKrugman (1998)は、均衡実質利子率(自然利子率)が負の水準まで低下することがゼロ金利現象の原因であるという仮説を提示した。Jung, Teranishi, and Watanabe (2005)等はこの仮説を動学一般均衡モデルで表した上で最適金融政策の特徴を明らかにした。しかしこれらの研究では自然利子率は外生変数として扱われており、そのため、自然利子率の低下という「実物的側面の変調」が「貨幣的側面の変調」といかに関連するかを論じることはできない。本研究では、自然利子率が金融市場の摩擦、期待成長率、さらには人口成長率などから内生的に影響を受ける環境へと議論を拡張することにより両者の相互連関の仕組みを明らかにする。

第2の研究の流れは、企業や家計の自己実現的なデフレ予想がゼロ金利現象を生み出すというBenhabib et. al. (2002) 等の仮説に基づくものである。この仮説についてはIwamura, Kudo and Watanabe (2006)など日本人研究者による実証的な研究の蓄積があるものの、企業や家計の予想を直接観察できないために、学会内での見方は分かれている。本研究では、米国連銀が最近開発したアンケート調査手法を活用することにより企業や家計の物価予想を直接観測し、論争に決着をつける。

研究期間と研究経費

平成24年度-28年度
152,000千円

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